花
ある日、小さな種が小さな芽が出した。
小さな芽は枝になり葉を増やした。
葉は太陽の光を浴びたが、まだその数は少なかった。
それでもいつか大樹になる日を夢見て、光を浴びた。雨に濡れて風に吹かれた。
葉が少し増えると、枝は少し太くなった。
枝が少し太くなると、また少し葉が増えた。
時々、酷い嵐の日もあったが、何かに守られているかのように生き延びた。
そんな事を繰り返し繰り返し
どれだけ時間が過ぎたのだろう。
枝はしっかりとした幹となり、新しい枝をいくつも伸ばした。
枝には無数の葉っぱたち。
葉は太陽を浴び、雨を受け、生き生きと風になびいてはその体を揺らした。
ある日、気が付くと、白い大きな蕾ができていた。
初めて花をつけたのだ。
あの日、最初に芽を出した頃の葉はもう居ない。
とうの昔に枝から落ちて、新しい葉の栄養になってくれていた。
思い返せば、その繰り返しだった。
気の遠くなるような時が過ぎた。
ひっそりと地から芽を出したあの日の種は、地中深くにしっかりと根を張り
その幹は、人間が何人両手を広げてもまだ足りないほどに太く成長した。
いま初めて花が咲く。
白くて儚い、どこか強くて凛々しい不思議な花だ。
花はやがて咲き誇り、その香りは人々を魅了する。
花の頃を過ぎると、ひっそりと枯れ始め、やがて種を付けるだろう。