岡倉天心

戒告

私が死んだら

悲しみの鐘を鳴らすな、旗をたてるな。

人里遠い岸辺、つもる松葉の下ふかく、

ひっそりと埋めてくれ――あのひとの詩を私の胸に置いて、

私の挽歌は鴎らにうたわせよ。

もし碑をたてねばならぬとなら、

いささかの水仙と、たぐいまれな芳香を放つ一本の梅を。

さいわいにして、はるか遠い日、海もほのかに白む一夜、

甘美な月の光をふむ、あのひとの足音の聞こえることもあるだろう。                        

一九一三年八月一日