2017-05-26 岡倉天心 戒告 私が死んだら 悲しみの鐘を鳴らすな、旗をたてるな。 人里遠い岸辺、つもる松葉の下ふかく、 ひっそりと埋めてくれ――あのひとの詩を私の胸に置いて、 私の挽歌は鴎らにうたわせよ。 もし碑をたてねばならぬとなら、 いささかの水仙と、たぐいまれな芳香を放つ一本の梅を。 さいわいにして、はるか遠い日、海もほのかに白む一夜、 甘美な月の光をふむ、あのひとの足音の聞こえることもあるだろう。 一九一三年八月一日